職人っていうのは“たわけ”だ。ゆったりとした、そして芯のある声で、矢入一男は何度か“たわけ”という言葉で自分を言い表した。ヤイリギター社長にして、約30人の職人を束ねる親方が発する“たわけ”は、“誇り”と“信念”と“少しの茶目っ気”を含んでいた。
現在77歳。「ギター作りを60年間、“たわけ”の一つ覚えでコツコツやってきた。職人であることが若い頃からただ好きで今まできたわな」。
ヤイリのギター作りは職人が手作業で仕上げていき、大がかりな機械は一切介入しない。ゆえに一日に仕上がるのは20〜30本ほど。「確かにこれは今の時代から全く乗り遅れとる。でもウチは、ギターを“組み立てている”のではなく、あくまで“作る”。そこに職人の礎がある」。
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職人は、材料の木と向き合いながら手で作っていく。その木は十数年寝かされるが、これは乾燥だけが目的ではない。ギターの表に使う寒い場所で育った木と、裏側の赤道直下の木を、同居させなじませる時間でもある。矢入社長は言う。「育ちが違うのを一瞬で付けてしまうとな、夫婦としてやれっこないだろ?」